方剤学講座 サンプルテキスト




■潤下剤(じゅんげざい)
練習問題
テキスト抜粋


<練習問題>

中医基礎理論講座


中医基礎理論講座


中医基礎理論講座

<参考テキスト>

■潤下剤(じゅんげざい)とは


潤下剤とは、潤燥滑腸を通じて、大便を排出し、腸燥便秘の治療に適する方剤である。
腸燥便秘の原因と方剤は以下の通りである。

(1)熱邪及び平素から火盛による傷津でおきる腸燥便秘で、この場合の潤下剤は、主に潤下薬の火麻子仁・杏仁・桃仁・郁李仁等を寒下薬の大黄等と配合することが多い。例えば麻子仁丸(ましにんがん)である。

(2)血虚及び陰虚によっておきる腸燥便秘で、この場合は熟地黄・何首烏・白芍・当帰などを用いる。例えば潤腸丸(じゅんちょうがん)である。

(3)腎陽不足及び病後で腎虚による腸燥便秘の場合、常に肉蓯蓉・当帰などの温補腎陽・潤腸通便の薬を用いる。例えば済川煎(さいせんせん)である。

麻子仁丸(ましにんがん)
別名 麻子仁丸(まにんがん)
脾約麻子仁丸(ひやくまにんがん)
脾約丸(ひやくがん)

【出典】傷寒論
【組成】麻子仁(火麻子仁)300g 芍薬250g 枳実250g 大黄500g 厚朴250g 杏仁250g
【用法】粉末を蜂蜜で丸剤にし、一日1~2回9gずつ内服。煎薬の場合、以上の配合割合で処方する。
【効能】潤腸泄熱・行気通便
【主治】腸胃燥熱・津液不足。大便乾結・小便頻数。
【方解】
胃中に燥熱があり、脾陰が傷つけられると共に、脾が胃に津液を転送する働きも阻害され、津液が胃腸に輸布できず、胃腸の濡潤が失われると、便秘、便が硬く兎糞状の症状が起きる。一方で胃腸に入るはずの津液が膀胱に入り、小便頻数が起きる。従って、便秘と頻尿が同時に起きるのが、この病理状態の特徴である。この病証を脾約証(ひやくしょう)という。治療原則としては潤腸通便を主として、泄熱行気を兼ねるべきである。

-配合について-
○君薬:麻子仁。麻子仁は腸内を潤滑にして滑利大腸、腸燥通便の功能がある。
○臣薬:杏仁・白芍。杏仁は降気潤腸である。白芍は養陰和営で潤腸する。君薬を助ける。
○佐薬:大黄・枳実・厚朴。大黄は苦寒で通便瀉結をする。枳実は下気破結に、厚朴は行気消結に働き、この三薬の配合で「小承気湯」となり降泄通便の力を強める。
○佐使薬:蜂蜜。蜂蜜は甘潤で潤燥滑腸の作用があり、大黄の攻下作用を緩和し、通便しても正気を損なわない。
麻子仁丸は、小承気湯に火麻子仁・杏仁・白芍・蜂蜜を加え構成される方剤で、小承気湯で腸胃の燥熱積滞を瀉すが、その使用量は比較的少量である。性質が潤で多脂の火麻子仁・杏仁・白芍・蜂蜜の使用量は多く、益陰増液によって潤腸通便ができ、腑気を通じさせ、津液を巡らせるという特徴があり、また甘潤の生薬で小承気湯の攻伐を緩和し、攻下しても正気を傷つけないという特徴もある。 諸薬の配合で潤腸泄熱しながら、行気通便もできる。

【応用】
1 方剤加減
(1)燥熱津傷が甚だしい場合、玄参、生地黄を加える。
(2)熱盛燥結が酷い場合、大黄の使用量を増やし、芒硝を加える。

2 弁証用方
麻子仁丸は脾陰不足、腸胃燥熱による腸燥便秘を治療する方剤である。例えば老人や産後の腸燥便秘、慣習性便秘などで、陰虚を伴う燥熱便秘の病理に属せば投与する。

3 使用注意
血少津虧による便秘、妊婦に禁忌である
<参考>
麻子仁丸の潤腸通便の効果をゆっくり引き出すために、服用方法にも工夫が必要である。例えば最初に10丸を服用し、その後次第に増量して内服する。このような意味で麻子仁丸は緩下剤に属しており、腸中乾燥による積滞便秘の治療に最も適する。 麻子仁丸を脾約麻子仁丸・脾約丸と名付けた理由は、脾約証が治療できる意味である。


■附方


(1)潤腸丸(じゅんちょうがん)
[出典] 脾胃論
[組成] 麻子仁37.5g 桃仁30g 大黄・当帰梢(当帰尾)・羌活各15g 
[用法] 丸剤
[効能] 潤腸通便・活血袪風
[主治] 飲食労倦・大便燥結。
乾燥による秘結や不通・不思欲食(全く食べたくない)・風結・血結などの病証。 風結(ふうけつ)とは、風邪による便秘を指す。患者の多くは眩暈、腹脹などを伴う。風熱感冒、大腸燥結、中風で胃腸の積熱によくみられる。また「風秘」(ふう\



■済川煎(さいせんせん)


【出典】景岳全書
【組成】当帰9~15g 午膝6g 肉蓯蓉6~9g 沢瀉4.5g 升麻1.5~3g 枳殻3g
【用法】水煎服
【効能】温腎益精・潤腸通便
【主治】老年腎虚。大便秘結・小便清長(澄んで尿量が多い)・頭目眩暈・腰膝痠軟。
【方解】
腎は五液を主り、二陰に開竅し、二便を支配する。腎陽が虚弱で、気化が無力になり、五液が腎の摂納を失い、二陰の開合が失常となる。即ち、水液が津液に化すことができず直接膀胱に入り、津液は全身に布散されない。そのため前陰が開き小便清長となり、後陰は閉じて便秘となる。腎虚のため腰膝がだるく感じ無力である(腰は腎の府)。 治療原則は、温腎養精・潤腸通便で治療する。

-配合について-
○君薬:肉蓯蓉。肉蓯蓉は甘鹹温で腎、大腸に入り、腎益精・暖腰潤腸に働き、補陽しても乾燥しない。
○臣薬:当帰・牛膝。当帰は養血和血・潤腸通便に、牛膝は補腎強腰に働き、よく下へ行く(下行)ので、燥屎の下行を促す。
○佐薬:枳殻・沢瀉。枳殻は下気寛腸により通便を助ける。沢瀉は滲利小便・腎中の湿濁を下泄する。
○使薬:升麻。升麻を小量に配合することで清陽を上昇させ(本方の特徴)、清陽が上昇させることにより濁陰を下降させる。
枳殻と沢瀉が濁陰を降下させることで、升麻による清陽の上昇に良い影響を与える。従って、枳殻・沢瀉の降と升麻の昇の調節により気機の壅滞を疎通する。 諸薬を協力して、温補腎陽と昇降の調節で通便する。

【応用】
1 方剤加減
(1)脾気虚を伴う場合、人参などを加える。腎虚が酷い場合は枳殻を取り除き、人参などを加える。
(2)腎精不足を伴う場合、熟地黄、枸杞子などを加える。
(3)津虧腸燥を伴う場合、麻子仁、杏仁などを加える。
(4)熱邪を伴う場合、黄芩などを加える。

2 弁証用方
済川煎は腎陽不足による腸燥便秘を治療する方剤である。例えば、習慣性便秘、老年性便秘などが腎陽虚に属せば投与する。

3 使用注意
済川煎は温性に属する方剤であるので、陰虚、燥熱などの便秘に禁忌である。
<参考>
(1)原書では、「凡そ虚証による便秘なら、朴硝・硫黄などの猛烈な下剤は必ず禁忌である。若し通便の方法で治療しなければならない場合、本方を使ってもよい。本方は通の中に補を兼ねる方剤」と説いた。

(2)本方は温補の中に、通便の効能を兼ねる為、済川煎と名付けられ、「済」は協力を、「川」は水の集まる喩えで腎を指し、更に後陰も意味する。温腎益精を通じて、潤腸通便の目的が得られる。それゆえ老齢者で腎虚による便秘の者には最適である。

(3)五液は、二つの意味がある。①五臓で化成した津液を指す。即ち心の液は汗、肺の液は涕、肝の液は泪、腎の液は唾である。
(4)水穀に化成される津液を指す。汗、尿、唾、泪、骨髄を含む。