
中医学アカデミーで学び、国際中医師の資格を取得した東洋史先生。今は十条で誠真堂鍼灸院を営んでいます。アカデミーとの出会い、中医学を学んだ時の経験をお伺いしました。
——アカデミー長 董巍との最初の出会いを教えてください。
東先生:今から30年くらい前、ある学校で一生懸命中医学を学んでいたのですが、難しくてなかなか深い理解ができず、悩んでいました。その時に、その学校に勤めていた董先生との出会いがあったのです。授業の合間の休憩時間に「睡眠について、なんで不眠になるのか考えてみてください」という課題を出してくれて。授業を聞きながらずっと考えていたら、「陰と陽で言えば、活動は陽だから睡眠は陰だ。不眠というのは陰が足りない——じゃあ陰虚かな」とひらめいて。授業が終わったあと、「先生、不眠は陰虚ですよね」と言ったんです。
董巍:短時間でよくそこまで分かりましたね。
東先生:こういうやりとりができる先生って、董先生だけでした。その後も、個人的に宿題を出してくださって、それに関する質問にも、僕が欲しい答えをちゃんといただけるんです。他の先生は、僕の質問に対して「これはこういうものだから覚えなさい」としか言わない先生が多かった。でも、僕は、医学ってそういうものじゃないと思っていて——症状が出てくるには、原因があって段階があって、その結果として今の症状が出ているはずで、それを論理的に診断してその原因から治すのが「中医学」のはずなのに、という疑問をずっと持っていました。それを、董先生はすべて解消してくれたのです。さらに、若かった当時の僕の欠点も正確に見抜いてくれていて、ものの考え方や進む方向性など、事あるごとに的確なアドバイスをいただけました。本当に人生の師に出会えた感じがして、「この先生についていこう」と思ったんです。生まれて初めて「この人に出会えて良かった」と心から思えたのが、他ならぬ董先生でした。
——その後、しばらく疎遠になったと聞きました。
東先生:董先生が、その出会いから数ヶ月後に仕事の関係で北海道に赴任することになってしまったんです。ネットも携帯もない時代のことですから、一度連絡先を見失うと、董先生が今どこで何をされているのか、知る術もありませんでした。
その後、紆余曲折があって、僕は大好きな中医学からさえ遠ざかることになってしまったんです。でも、董先生のことだけはずっと覚えていて、「いつかまた再会したい」と思い続けていました。そして、それから14年後、当時勤めていた会社でネットを使って仕事していたとき、思いがけず董先生のお名前を見つけたんです。本当に嬉しくて、仕事中なのに載っていたメールアドレスにすぐにメールしました。「董先生、東です」と。
董巍:東先生は本当に印象に残っていた生徒でしたよ。連絡が来たとき、すごく嬉しかったです。

——再会のタイミングで、鍼灸師の道を選ばれたんですね。
東先生:実は、鍼灸学校に行こうか悩んでいた頃でもありました。当時は、中小企業診断士の国家資格を5年間ずっと勉強していたんですが、5回受けて全部ダメだったんです。6回目に挑戦しようか悩んでいたところ、母親が「鍼灸学校に行ってみたら?」と言ってくれて…。そのとき、「もう一つの道が自分にはある」と気づいたんです。もともと中医学が大好きだったのに、その道を諦めて別の道を進もうとしていた僕をずっと見守ってくれていた母親でしたから、試験に負け続ける僕を見かねて、そう言ってくれたんだと思います。そして、そのタイミングで董先生のお名前を見つけた。人生の第二幕が開き始めるような感じがしました。そして、董先生に「お会いしたい」と連絡し、鍼灸学校のことを相談したところ「私の持っているものを全て伝えるから、ぜひ鍼灸学校に行ってほしい」と言っていただいたんです。あのときの董先生の言葉が、僕の背中を力強く押してくださいました。
——国際中医師の受験を一度やめたとも聞きましたが。
東先生:鍼灸師になってすぐに董先生の国際中医師の講座に申し込み、勉強を始めたんですが、当時は肩こりや腰痛すら治せない鍼灸師でした。その中で「国際中医師の勉強って、今の自分に必要なんだろうか」という疑問を持ったのです。せめて、肩こりや腰痛を治せる鍼灸師にならないと、国際中医師になっても誰も認めてくれないし、家庭も守れない、と。講座が全部終わって最終テストも通って「これから試験だ」というときに、気持ちが折れてしまったんです。
これまで鍼灸学校で学んだ知識や技術を臨床に活かす力が、全く備わっていなかった。だから、まずそこから勉強しないと、鍼灸師として自立できないと思って、受験は一旦置いておいて、勉強の方向を変えたんです。
その後4〜5年経ってから、僕が最初のKindle本を出したタイミングで、先生からまた連絡をいただきました。「国際中医師をもう一度やってみないか」と。その後、先生の事務所まで伺って話を聞いて、「この時期ならもう、自分がやると決めればできる」と思えたんです。
董先生がおっしゃったのは、「HPや言葉ではいくらでも『専門家』と自称できる。けれど、国際中医師は公的な証明書。誰にも文句を言わせない唯一の証(あかし)であり、持っているだけで大きな強みになる」と。それを聞いて、「今、自分に必要なのはこれだ」と確信しました。
——資格を取ってから、変化はありましたか?
東先生:当時、鍼灸師としての実力もついてきていたのですが、周りの鍼灸師の中に埋もれてしまって。「うちは伝統中医学をやっています」と謳っても、一般の方は鍼灸師はみんな東洋医学の専門家だと思っているのです。自分の専門性をうまく伝えられず、なかなか繁盛しませんでした。
でも、資格を取ってからは「この先生はちょっと違う専門性を持っている」と感じてもらえたようで、「ちょっと試しに来てみました」という声が非常に多くなりました。ご来院くださった患者様は症状が改善しますから、「やっぱり中医学ってすごいんだ」と実感してくださり、信頼関係がすぐできるようになりました。自分の専門性をアピールしなくても、この資格一つでまずはある程度信頼していただける。あとは自分の実力です。
董巍:看板として偽りがない。その代わり、ちゃんと実力も試されますね。

——現在の診断や臨床について教えてください。
東先生:国際中医師の学習のおかげで、診断の精度はかなり上がりました。さらに、患者様にも、今の体の状態と、なぜこのツボを使うのか、を中医学的に論理的にわかりやすく説明できるようになったので、深い信頼関係が築けています。もちろん、実際に効果を実感していただいていますから、患者様のリピート率は高く、紹介も多いので、集客にお金をかける必要がほとんどなくなりました。
董巍:そのツボに対して補う方法を使うか、瀉す方法を使うか。例えば心腎不交だったら、腎を補いながら心の熱を少し瀉す——といったことができるようになっているわけですね。それは中薬でも同じ理論ですよ。配合理論も一緒で、そういうやり方をすると鍼灸の効果が高まります。証を正確に立てれば立てるほど、効果が上がっていくんです。
東先生:方剤学で生薬の組み合わせを学ぶと、先人たちがどのように病を診断し、治療の組み立てを導き出したのか、その思考のプロセスが見えてきます。勉強していて、あれはもう感動的なんですよね。
董巍:理論の上でちゃんと実践できているということで、自分が納得するだけでなく患者さんも納得する段階に入っている。本当に良い段階に入っていますよ。
——日本における中医学の可能性について、どうお考えですか?
東先生:可能性としては、非常に大ありだと思っています。やはり、西洋医学の限界を感じている患者様が増えているんです。昨年、こんな患者様が当院に駆け込んでこられました。動悸が気になるので救急病院に行ったら「死ぬかもしれない」と入院させられて、さまざまな検査をしたんですが何も出てこない。別の複数の病院に行っても、病院ごとに全く違う診断をされた。当院での初めの問診で、「自分の体がどうなっているのか不安でたまらない」と訴えておられました。丁寧に分析すると、気が乱れているだけでしたから、鍼で気を整えてあげたら、症状は全て改善しました。
「気」という概念が西洋医学にはない。そこが、中医学との大きな違いです。様々な問題を抱えている日本の現状を考えると、不安やストレスを感じることが多いため、気の流れに異常をきたしやすくなっています。昔のように食糧不足の時代であれば、栄養失調が原因となる病が多かったでしょう。ですから、気の在り方を診断し、それを調整できる中医学はこれからの主流になるべき医学だと思っています。
東洋医学が、日本で「医学」として法的に認められることはないでしょう。でも、日本人の心の中の認識だけは変えられると思うんです。「中医学、東洋医学ってこういうのも治せるんだ」と日本人の半分くらいが思ってくれれば、チャンスは広がると思います。
董巍:そうなんです。ただ、本当に中医学を分かっている人が少ないのが今の現実。可能性はあるのだから、人材育成は急務です。診断できても、的確な処方を選べなければダメですし、鍼灸師も診断できても正しく刺鍼できなければ意味がない。中医人材をもっと増やしたいと思うのは、私たち2人の共通点ですね。

——アカデミーで勉強していたとき、どのように時間を使っていましたか?
東先生:空いた時間すべて勉強に使っていました。休み時間も、電車の中も、休日も。当時は、まだ子供たちも小さかったので、家で勉強できないときは「パパ、マクドナルドに行って勉強してくるね」と言って(笑)。毎日必ず20分、30分は勉強するという習慣ができていましたね。
董巍:それは良い習慣ですね。習慣化できているというのは大きい。
——アカデミーの練習問題については、いかがでしたか?
東先生:ポイントをちゃんと押さえられるように作られているなと思いました。問題を解いていると、押さえるべきところはここなんだというのが分かる。本を読むのに比べると、学習の効率がだいぶ違いましたね。楽しく取り組めました。
——誠真堂鍼灸院では、保険診療はされていないとか。
東先生:やっていないです。保険診療をしてしまうと、様々な制限がかかってしまうので。患者様1人ひとりと向き合って、丁寧に治療していきたいのです。ちゃんとこちらが適切なメッセージを出せば、僕の治療を必要としてくださる患者様がお越しになりますし、適切な治療をしていれば身内や友人を紹介してくださるようになります。広告費用は今ゼロで、口コミでお越しになる方がとても多いです。
董巍:一番ありがたい形ですね。改善すれば「あそこに行ってみなさい」となりますから。ただ、紹介で来る方は東先生のことをまだ知らない。だからホームページが大事で、国際中医師であること、中医学に対する情熱や論理性をもっと強く打ち出すといいと思います。信頼される先生のほうが同じ処方でも効果が出やすい——それが中医学の面白いところでもありますね。

——これからアカデミーで学ぼうとしている方へ、アドバイスをいただけますか。
東先生:鍼灸師は処方ができないので、学んだ中薬・方剤を臨床で使えないんです。使いながら覚えるということができないから、ひたすら暗記の繰り返し。進んでまた戻ったら忘れている、その繰り返しです。だから、どれだけ勉強に楽しさを見出せるかが大事だと思います。先ほどもお話ししましたが、方剤学で学ぶ生薬の組み合わせは、先人たちが試行錯誤の末にたどり着いた、診断から治療に至る思考プロセスの集大成です。鍼灸師でも学ぶ価値は十分あります。ただ、やはり薬剤師さんは実務で使えていいな、と思いましたけどね(笑)。
国際中医師合格から5年以上が経過していますが、今でも根本的な考え方——例えば、がんや腫瘍は補うだけでなく同時に活血薬を配合するとか、虚証でも補うだけではなく理気薬を加えるとか——そういう基本の思考は今もちゃんと残っています。しかし、僕は臨床では薬を処方できませんから細部は忘れていきますので、また改めて学び直そうとも思っています。
董巍:確かに。やはり使うことで定着しますからね。弁証を活かした医学で、論理的に何でも診られるというのが中医学の強みです。一つの専門領域を軸にしながら、中医学の土台があれば幅広く対応できる。そういうレベルの人材を増やしていくことが、これからの課題ですね。

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