中医学アカデミーからのメールが届かない場合にご確認いただきたいこと(2024/2/14)

中医学の特徴 整体概念と弁証論治

2010-04-25 15:53



中医学の特徴は主に二つあります。整体概念と弁証論治です。


1.整体概念


(1)「『整体』とはマッサージのことですか?」


整体概念と弁証論治は中医学の理論体系の特徴です。中医学に興味を持ち最初に出会う不思議な言葉として印象に残る方もいるようです。「整体概念の『整体』とはマッサージのことですか?」と質問されたこともあります。

「整」には、荷物を束ねてまとめるという意味があります。整体概念の「整」は、「全てのことは関連しあう関係がある」ということを意味しています。

これは全てのものには関連性があるという考え方で、この「全て」には二つの意味があります。

一つは、「自然界に存在する『全て』のものは天と地の影響を受けている」という意味。もう一つは「人体の各臓器や組織は『全て』相互に影響し合う』という意味です。

人も自然界の一つの存在に過ぎません。人は自然環境の中で生活しており、自然界の変化は直接または間接的に人体に影響を及ぼし、それに応じて体は種々の反応を生じます。陰陽平衡が崩れない場合は正常な範囲の反応です。陰陽平衡が崩れて病気になった場合は病理反応です。


(2)自然からの影響を受ける人体


人間の体は自然界の一つの存在に過ぎません。このことは人体が常に自然からの影響を受け、これに順応するために五臓六腑、陰陽、気血などの平衡を調節し健康状態を保つことを意味しています。

もし、変化への順応力が低下したり、自然の変化が激しく体の順応が追いつかない場合には体の陰陽バランスが崩れてしまい、体の不調や病気が生じます。

近年の天気は寒暖の変化が激しく、カゼやインフルエンザにかかる方が増えています。これは体の順応力が自然の激しい変化に追いつかないためと考えられます。

順応力を高めるには中医学的な方法で対応することが必要です。


(3)人体の各臓器や組織は相互に影響し合う


人体の各臓器や組織には、相互に影響し合う協調と制限の関係があります。

体の五臓(肝・心・脾・肺・腎)と六腑(胆、小腸、胃、大腸、膀胱)は、いずれも単独で機能しているのではなく、相互に協調し、制限しあっています。正常な健康状態は、このように相互に影響しあうことで保たれています。

協調しあう関係では例えば、肺は腎と協力しあう関係にあり、肺の病が長期間に及ぶと腎に影響が及びます。

制限しあう関係では例えば、正常では肺は肝の上昇の力を制限しますが、肺気が弱い場合は肝気が上昇しすぎて激しい咳や頭痛などの病気をひき起こします。

これらの概念を学ぶことで1つの臓器の働きが乱れれば、この臓器の機能が低下するだけでなく、他の臓器に悪い影響を及ぼすことがわかります。

病気を診察する場合、一つの症状だけに囚われるのではなく、症状を招いた自然を含む環境の変化、機能が損なわれた臓はどれか、またそれに伴い関連する臓腑に影響が及んでいるかなど、病気全体を捉え病気の病因病理を判断してから適切な方剤を選択します。



2.弁証論治


弁証論治には弁証と論治という二つ部分があります。

弁証とは、医師が自身の感覚器官により、患者の反応から各種の病理的信号を収集することを指します。望・聞・問・切という四つの診察法(四診という)を用いて得られた疾病の信号に対し、分析総合という情報処理を行い、証侯(病因病理特徴と症状特徴などを含める)として判断します。

論治とは、弁証の結果にしたがって適切な治療を行うことを指します。
たとえば、外部の環境の激しい変化で
弁証の技術を身につけるのに必要なのが中医基礎理論と診断学です。

●中医基礎理論

整体概念、陰陽学説、五臓六腑の生理特徴、五臓の間及び六腑の間の協調と制圧の関係、病因病理、治療原則を学びます。

●診断学

四診、弁証を学びます。診断学を学ぶには土台となる中医基礎理論が必要です。

論治においては、中薬学、方剤学が必要です。

●中薬学

単味の生薬がどのような病因病理に対して治療作用があるかを勉強しながら、生薬の働きと生薬の併用術(配合理論)を学びます。
生薬を一つだけで使用することは少なく、大抵いくつかを併用します。生薬の併用術は主に二つあります。
ひとつは「体に弊害する、あるいは要らない働きをほかの生薬で制圧する」こと、もうひとつは「生薬の働きを更に高めたり、調和したりする」ことです

●方剤学

先人たちが纏めた治療効果を持つ生薬の組み合わせについて学びます。
生薬を組み合わせる際は、原則的に
・病因病理の特徴
・臓腑の間の関係
・臓腑と皮膚などの器官の関係
を考慮しなければなりません。
先人たちは、配合理論を駆使し、病因病理、症状の特徴などを考慮した多くの処方を作り出しました。

●内科学

基礎理論と診断学、中薬学と方剤学をまとめ、臨床で弁証論治を実践するためのものです。
則ち、方剤学は効果的に病気を治療するため、弁証の結果に従い、処方しなければなりません。その弁証論治の集大成が内科学です。


弁証論治の不思議を表す「同病異治(どうびょういち)」「異病同治(いびょうどうち)」という言葉があります。
同病異治とは、同じ病気であっても誘発する病因病理が違えば異なる方法で治療するという意味です。
異病同治とは、違う病気でも誘発する病因病理が同じであれば、治療方法が同じになるという意味です。
つまり弁証論治の核心は病因病理にあるのです。

同病異治の例として咳が挙げられます。同じ咳でも痰湿によるものや、ストレスによるものなどがあります。痰湿による咳はストレスによるものとは治療方法が違ってきます。痰湿による治療方剤は二陳湯などで、ストレスによる咳は逍遥散などの加減で治療を行います。

異病同治の例としてはストレスが挙げられます。ストレスは多くの病気を引き起こします、咳の場合もあれば、胃痛の場合もあります。咳と胃痛は全く違う病証ですが、原因はストレスで、病理は肝の鬱結であるので、治療の方針は同じ疏肝理気となります。
また、脱肛と眩暈は全く違う病気ですが、同じ脾気下陥という病理状態を判断して脱肛と眩暈は同じ方剤で治療します。この方剤は補中益気湯です。

漢方薬の選択や針灸の穴の選びなど、治療はすべて弁証論治の原則に従わなければ副作用が出てくる可能性が極めて高いのです。



この記事の執筆・監修

董巍写真

中医学アカデミー代表・世界中医薬連合会常任理事・中医師
董巍

董巍からのご挨拶とメッセージはこちら→「中医学アカデミーが目指すもの